
街と人に溶け込む珈琲時間
刈谷の街かどに移動カフェ
刈谷駅南口からほど近くにある小さな広場、南桜街園。
停まった一台のキッチンカーから、深く香ばしいコーヒーの香りが広がります。
ゆっくりとお湯を落とすのは、移動カフェ「ayakicoffee(アヤキコーヒー)」を営む幸子さん。


刈谷市やその近辺の公園やイベント、マルシェに出店しています。
「どんなコーヒーが好みでどんな気分なのか。気持ちに寄り添えるような一杯を作りたい」
訪れた人と言葉を交わしながら、丁寧にハンドドリップでコーヒーを入れています。
宮崎から始まった自立の一歩
宮崎県で育った幸子さんは、高校卒業後すぐに上京。
家を出て自立したいという思いが強く、友人も知人もいない土地へ飛び込みました。
ところが、わずか1年後にリーマンショックで職を失い、宮崎へUターンすることに。
社会情勢に振り回される経験となりましたが、その時期に同郷の夫と結婚。
夫の勤め先がある豊田市に移り住み、2人の子どもにも恵まれます。


頼れる身内のいない土地での子育ては、想像以上に忙しい毎日でした。
そんな日々の中、幸子さんのそばにはいつも大好きなコーヒーがあり、心のよりどころになっていました。
やがて、子どもの成長と共に自分と向き合う時間が増え、「子育てをしながらも社会とつながっていたい」という思いが芽生えます。
スピードよりも対話を
人と話すこととコーヒーが大好きな幸子さんは、刈谷市の企業内店舗の「スターバックス」で働き始めました。
忙しい店舗で多くの来客に対応する日々。
やりがいはありましたが、次第に別の思いが心の奥に宿るようになります。
「来てくださったお客さまと話しながら、
ゆっくりコーヒーを入れたい」
目の前の一人と、もっと深く向き合いたいという気持ちと、会社の枠にはまっていくことへの怖さも感じていました。
悩んだ末に退職を決意。
効率やスピードではなく、対話を軸にできる働き方を探すことにしたのです。


マルシェやイベントへ足を運ぶのも幸子さんの楽しみのひとつでした。
ある日、キッチンカーでコーヒーを提供する光景に出合い、
「こんなふうにコーヒーを届ける仕事があるんだ」
と心を動かされます。
夫に相談し、手作りのキッチンカーで出店を始めました。
幸子さんは注文を受ける前に、
「今日はどんな気分ですか?」
「酸味はお好きですか?」
と声を掛け、一人ひとりとの会話を大切にします。
「コーヒーを入れて、お客さまと話して過ごす時間が本当に楽しくて。毎日がとても愛おしいです」

キッチンカー 刈谷で広がる縁

マルシェで出会った刈谷市の職員の誘いをきっかけに、南桜街園への出店も実現。
「ここにキッチンカーが置けたらいいなぁ、なんて思っていたんです」
と、当時の喜びを懐かしそうに振り返ります。
キッチンカーを始めて7年。
広がった縁を大切にする幸子さんは、こう話します。
「また会いに来たくなる一杯を、積み重ねていきたいですね」
コーヒーを通して、人と人がつながる時間。
その真ん中に、今日も幸子さんが立っています。

