
障がい関係なく楽しめる音楽を
音楽の力に引かれ 進路変更
「障がいの有無に関わらず、誰もが安心して音楽に触れてほしい」
音楽家として活動する塚本菜月さんは、主宰する音楽教室で障がいのある子どもたちを受け入れ、音楽の楽しさを伝えています。


看護師を目指していた高校時代。
吹奏楽部で、演奏していた曲の作曲家自身の指揮で奏でる機会がありました。
演奏が始まると、音楽の空気は一変。その衝撃的な体験から進路を変更し、一浪して東京の音楽大学へ進学します。
音楽の力に引かれ 進路変更
音楽大学で専門的に学ぶ日々は刺激的でしたが、同時に厳しい世界でもありました。
無意識のうちに他の学生と自分を比べてしまい、「自分はダメなんじゃないか」と、苦しく感じることが増えていきました。


そんな時、障がいのある子どもたちとセッションする機会がありました。
思いのまま自由にドラムを叩く男の子。上手かどうかではなく、音を出すことそのものを心から楽しんでいるように見えたといいます。
その音に引き寄せられるように、人々が集まっていくのを目の当たりにした菜月さんは、「障がいがあっても、音楽はこんなに楽しめる」と心を震わせました。
音楽を通して支援の道へ
大学でのセッションをきっかけに、「音楽は誰かと比べたり、評価したりするんじゃなくて、誰でも楽しめる」と思うようになった菜月さんは、児童発達支援施設でアルバイトを始めます。
子どもたちは愛らしく、スタッフが一人ひとりと丁寧に向き合う姿に引かれ、卒業後はそのまま施設に就職しました。


「自分にできることは、音楽だ」と考え、支援内容に音楽の時間を設けてもらいました。
年に一度のクリスマス会も企画。コンサートでは、「動いてもいい。声を出してもいい」と伝えました。
「演奏をじっと聴く子もいれば、車椅子で体を揺らしながら音を感じる子も。どんな姿でも、その場にいてもいい時間にしたかったんです」
保護者からは、「クリスマス会があるから毎年、うちの子は生きていると実感できるんです」と言われ、やりがいを感じていました。
憧れず、比べず、ありたい姿を叶える音楽
働き始めて7年目。
障がいのある子どもに音楽が与える前向きな力を実感しつつも、菜月さんは迷いを抱えていました。
周囲の同世代は結婚や仕事など、確かな人生へと歩みを進めているように感じ、自分と比べて焦りを抱いていました。


悩む菜月さんの心に届いたのは、大リーグで活躍する大谷翔平選手の言葉でした。
2023年ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の決勝、アメリカとの対戦前、チームメートに向けて発した「憧れるのをやめましょう」の一言。
菜月さんは憧れたり、比べたりするのではなく、「自分はどうありたいのか」と自身に問い掛け、地元・刈谷へ戻り、障がいのある子どもたちのために活動しようと決断しました。
現在、築地町の「toirone音楽教室」を拠点に、動いても声を出しても良いコンサートを開催。
子どもも大人も、障がいの有無に関係なく、同じ空間で音楽を楽しめます。
「音楽って楽しい。心が豊かになるって、もっと広めたい」と、コンサートを刈谷から愛知へ、そして全国、世界へ広げていきたいと考えています。

