
オリーブ畑に実る夢
農園とカフェが“今を生きる場所”へ
始まりは一本の木
刈谷市北部ののどかな田園風景の中に、塚本芳美さんが営むオリーブ農園「今川オリーブ ドゥルドゥ」(今川町)はあります。
自宅の庭と広さ300坪の畑で合わせて40本程のオリーブを育て、収穫した実は塩漬けなどに加工して販売しています。
26年前、結婚を機に夫の地元である今川町に移り住んだ芳美さん。
池や田んぼが広がる自然豊かな風景は、出身地であるみよし市(当時みよし町)と重なり、「なんだか似ていて、なじみやすかった」と言います。


「夫は植物が好きで、『新居のシンボルツリーは何にしようか』と聞かれたんです」
芳美さんは冬でも落葉せずに緑を保ち、樹形や葉の美しいオリーブの木をリクエスト。
「私は1本だけ植えるのかと思っていたら、夫がどんどん増やしてしまって」
気が付くと庭のオリーブの木は20本にもなっていました。
漬け物づくりに試行錯誤
オリーブは水はけの良い土地を好み、虫などに頼らず自家受粉します。
平地で遮るものがなく、強い風が吹く今川町の気候は受粉を助け、栽培に適していました。
オリーブは1つの品種だけを植えてもうまく実がなりませんが、塚本さんのオリーブはさまざまな品種があり、徐々に実をつけるようになりました。
4年ほど経つと実もたわわに。
「夫に『どうにかして』って言われて。でも私、オリーブオイルも苦手だし、そもそも食べたこともなかったの」
そこから、オリーブの活用法を模索する日々が始まりました。


小豆島の農園ブログを参考に塩漬けを試みるも、実が採れるのは年に一度。
「正直、おいしくなかった。渋みが強くて…」と、苦笑まじりに振り返ります。
試行錯誤を重ね、おすそ分けした友人から「おいしい! 売れるよ!」と、お墨付きをもらったのは、最初の1本を植えてから8年目のことでした。
「私たち夫婦、どちらかといえばオリーブは苦手だったの。でも、自分好みに漬けてみたら、本当においしくて」と笑います。
友人の後押しもあって漬物業の免許を取得。漬物づくりも本格化していきました。
夫との別れ 遺された夢と農園
夫の定年退職を機に、夫婦で第二の人生としてオリーブ農園を本格的に始めようと決意します。
しかし、農家ではない2人にとって農地取得のハードルは高く、まずは借地で5年間の継続利用の実績を積み、審査を受けることに。
「夫は経営者気質で、『やるからにはもうけを出さないと! 漬物だけじゃなくオリーブオイルを作ろう』って張り切っていたの」


ところが、夢を語ったわずか10日後、夫の病気が発覚。
「最初は農園も辞めるつもりでした。でもやっぱり、夫の思いを受け継ぎたくて」
夫は1年間の闘病生活の末、2025年の1月に亡くなりました。
芳美さんは、夫が遺した夢とともに、オリーブ農園を続けていく決心をしました。
夫の夢を自分の夢へ
夫を亡くした深い悲しみの中、「癒やされる空間で、誰もが自分の時間を過ごせたら」と思い立ちます。
自宅の一部を改装し、カフェの開業を決意。現在はプレオープンを経て、秋のグランドオープンに向けて準備中です。


「プレオープンをしてみたら、人手がまったく足りなくて。夫の思いも伝えて、手伝ってくれる友人6人と一緒に、この場所を守り、育てていこうと話し合いました」芳美さんのもとに集った友人たちは同世代。
“子育てが一段落したけれど、まだまだ何かをやりたい”というパワフルな女性たちです。
芳美さんの「子どもが大きくなっても、かっこいいお母さんでいたい」「自分も周りの人も、生きがいややりがいを持って輝いてほしい」という思いに共鳴し、活動を支えています。
夫の夢とともに歩み、周囲をも輝かせる芳美さん。
「夢があるからこそ、今を大切にできる。10年後、20年後に『やってよかった』と思えるように、今日を精いっぱい生きていきたいですね」
